日本経済新聞社が、ほぼ一年ごとに発表する「世界シェア調査」の最新統計を発表しました。
日本企業は昨年と同11品目での首位を示しましたが、品目によっては楽観できない部分もあり、明暗が分かれたと言えます。
首位11品目をどのように評価すべきか、その内訳と高評価企業を説明します。
このページの目次
概要:世界シェア調査の発表結果
「世界シェア調査」とは?
世界シェア調査とは、日経が行っている「主要商品・サービスシェア調査」のことです。
これは、世界中で取引される主な商品やサービスについて、国別のシェアをまとめた、日経経済新聞による統計調査です。
おおよそ一年ごとに、前年のデータを元に算出されます。
今回(2017年6月26日)に発表されたのは、前年となる2016年の統計となります。
今回は11品目で日本企業が首位に
今回(2017年6月)に発表されたのは、対象57品目における、2016年(前年実績)のシェアです。
これによれば、日本企業が11品目で世界シェア首位となりました。
日本首位に注目した場合、直近三年間の推移は、下記のようになります。
調査対象年 | 2014(15年発表) | 2015(16年発表) | 2016(17年発表) |
---|---|---|---|
調査対象品目数 | 50品目 | 55品目 | 57品目 |
日本首位の品目数 | 9(18%) | 11(20%) | 11(19%) |
日本首位となった品目と企業名
日本が首位となった品目とその企業名は、次のようになります。
直近三年間で、2014年から2016年(今回)への順に並んだ表です。
※赤太字は、最新2017年調査での注目企業です。
調査対象年 | 日本首位の品目 |
---|---|
2014 | 炭素繊維(東レ) CMOSイメージセンサー(ソニー) 産業用ロボット(ファナック) マイコン(ルネサンスエレクトロニクス) 白色LED(日亜化学工業) 自動車(トヨタ) ゲーム機器(ソニー・コンピュータエンタテインメント) デジタルカメラ(キヤノン) レンズ交換式カメラ(キヤノン) |
2015 | 炭素繊維(東レ) CMOSイメージセンサー(ソニー) 産業用ロボット(ファナック) 白色LED(日亜化学工業) 自動車(トヨタ) タイヤ(ブリヂストン) リチウムイオン電池向けセパレーター(旭化成、2位東レで合計シェア7割) マイコン 中小型液晶パネル レンズ交換式カメラ デジタルカメラ |
2016 (17年6月発表) | 炭素繊維(東レ★) CMOSセンサー(ソニー★) 産業用ロボット(ファナック) リチウムイオン電池向けセパレーター(旭化成★) リチウムイオン電池(パナソニック★) タイヤ(ブリヂストン) A3レーザー複写機・複合機(リコー) マイコン(ルネサンスエレクトロニクス) 中小型液晶パネル(ジャパンディスプレイ) レンズ交換式カメラ(キヤノン) デジタルカメラ(キヤノン) |
分析:首位11社も、市場成長性ごとに評価分かれる
安定し首位継続した企業数社、パナは新規首位獲得も達成
炭素繊維では、2014年から三年連続で、東レが首位をとりました。
風力発電向けの需要が伸びる状況で、二位・三位も日本企業が占めました。
リチウムイオン電池セパレーターでは、昨年から続けて旭化成が首位をとりました。
EV(電気自動車向け)の需要も伸びつつある今、さらに伸長も期待されています。
リチウムイオン電池では、パナソニックが新たに首位に浮上しました。
同じくEV需要が好調で、EV大手の米テスラとの協業による量産も、本年1月に始まっています。
CMOSセンサーでは、三年連続で、ソニーが首位をとりました。
CMOSセンサーとは、スマホ含むデジタルカメラに使用される画像センサーのことです。スマホでは背面に2つのカメラを搭載する機種も増えたことが、さらに追い風となっています。
市場縮小産業での首位は評価難しく
一方、首位とはいえ市場自体が縮小している品目も見られました。
デジタルカメラでは、首位のキヤノンに加え、ニコン、ソニーと上位三社が市場シェアの7割を占めるものの、市場自体は今後縮小の懸念もあります。
レンズ交換式カメラでも、同様の懸念があります。名称こそ違えどこちらもデジタル一眼レフカメラ(デジイチ)のことで、大枠状況としてはデジタルカメラと軌を一にしています。
「デジカメ市場は、スマホに食われている」という言説がよく見られますが、実際は、スマホが「写真を撮り、共有できる」のに対し、デジカメは「写真を撮れる」だけで共有できないことから、市場のニーズに追いついていない、という点が指摘されています。
世界首位を占めるとはいえ、デジカメ主要企業であるこれら国内三社は、このところ岐路に立たされて久しいといえます。
A3レーザー複写機・複合機でも、リコーが首位、上位にはキヤノンも入ったものの、市場自体は縮小しており、デジカメと類似した状況が懸念されます。
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まとめ:部品・部材で希望的観測、完成品は遅れも
大まかに言うと、部品。部材では成長産業で首位を取れていますが、完成品・既製品では、衰退気味のジャンルでしか首位を取れていない状況です。
部品・部材に希望:炭素繊維など
炭素繊維やリチウム電池関連の品目は、部品・部材分野での評価ポイントといえます。
このあたりは今後も先端産業としての伸びが期待される分野であるほか、とくに炭素繊維は東レ以下も東邦テナックス、三菱ケミカルが続いており、日本企業の躍進が期待できます。
完成品・既製品は遅れ?:成長産業でシェア取れず、自動車は上位落ちも
デジタルカメラやレンズ交換式カメラ、A3レーザー複写機・複合機というジャンルでの首位は、短期的には評価ポイントながら、調査品目全体から見ると、衰退気味の品目にあたり、楽観はできないと言えます。
また、これらの企業のほか、自動車で前年まで首位だったトヨタが、今年は仏フォルクスワーゲンや米GMに抜かれ3位に甘んじています。こちらも完成品・既製品ジャンルでの日本企業の遅れを象徴するデータといえます。
成長市場での対応が課題か
成長産業は、直近の技術革新に大きく影響されますが、いま現在注目を集めるAI分野では米アマゾン、ドローン(小型無人機)では中国DJIが存在感を高めるなど、国内企業は遅れを取っています。
今後の市場変化にどのように対応できるかが、国内企業の今後を左右しそうです。