安倍首相が28日の臨時国会をめどに衆議院解散に踏み込む可能性が取沙汰されており、来月末には投票との報道も出ています。
ここでにわかに活気づいていたのが、株式相場です。株式で言う、いわゆる「選挙は買い」アノマリー、もしくは「解散は買い」アノマリーの通り、相場は大きく上げました。しかし、今注目されているこのアノマリー、果たして信憑性はいかほどのものなのでしょうか?
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「解散/総選挙は買い」アノマリーと今の相場
衆議院解散の可能性が報じられる前後、日経平均株価は4連騰で躍進、そのあと北朝鮮リスクの高まりから反発したとはいえ、今後も二万円台で推移しそうな底堅い雰囲気に見えます。
今回株価を押し上げた材料としては円安が作用したと見られますが、この衆議院解散のニュースも大きく作用したと見てよいでしょう。いっときは凄まじい買いが続く様子も見られ、まさに「解散は買い」「選挙は買い」アノマリーのとおりに市場が動いていたと言えます。
「解散/総選挙は買い」アノマリーとは
衆議院解散・総選挙では、メディアが一気に「大義」について論じ始めます。しかし、与党から見ると「支持率が上がっているタイミングでもう一回選挙をしておいて、任期を伸ばしたい」という意図が、解散・総選挙の大きな目的と言えます。この視点でいえば、与党発動の解散総選挙の「大義」とは、政策云々よりも前にまず「与党の政権維持のため」という点に尽きる、とも言えるでしょう。
となると、これはすなわち「与党の長期政権化」の観測を強めるものとなります。
解散・総選挙となると、投資家にしてみれば「長期政権が国内の安定に寄与し、経済へのプラス要因となるはずだ」「ゆえに、株価は上げるはずだ」となります。
おおむねこうした観測で、解散・総選挙が買いのタイミングになるのだ、というのが、「選挙は買い」「解散は買い」アノマリーの大意です。
過去の総選挙で検証してみよう
しかし、本当にそうなのでしょうか?ここで、2000年以降の総選挙を振り返ってみましょう。
次の表は、2000年以降に行われた解散・総選挙のリストです。
日付 | 選挙回 | 備考 |
---|---|---|
2000年6月2日 | 第42回総選挙 | 「神の国解散」、森内閣継続 |
2003年10月10日 | 第43回総選挙 | 「構造改革解散」、自民過半数も民主躍進 |
2005年8月8日 | 第44回総選挙 | 「郵政選挙」、自民圧勝、野党大敗 |
2009年8月30日 | 第45回総選挙 | 「政権選択解散」、民主躍進、政権交代 |
2012年11月12日 | 第46回総選挙 | 安倍自民が政権奪還、民主は大敗 |
2014年11月18日 | 第47回総選挙 | アベノミクス支持高く投票率は最低、自民圧勝 |
「選挙が買い」なら、これらの総選挙後、株価は上げているはずです。逐一見てみましょう。
第42回総選挙:株価下げ
2000年の解散では、第一次森内閣から第二次森内閣へと移行、自民政権が維持されるも、株価はその後下げています。
第43回総選挙:株価上げ
2003年の解散では、小泉純一郎政権による「構造改革」が旗印となりました。自民は過半数を取るも民主党の躍進は著しく、二頭体制のていに近づきました。
株価はこの後、よろめきつつも半年ほどで上げています。
第44回総選挙:株価上げ
2005年の総選挙は「郵政選挙」と呼ばれました。2003年と同じ小泉政権の勢いは圧倒的で、自民は圧勝、野党は大きく議席数を減らし大敗を期しました。その後株価は躍進します。
第45回総選挙:株価下げ
つづく45回は2009年に行われました。このときは「政権選択解散」と言われ、民主が大躍進を果たし、政権交代が実現します。
日経平均株価はこの後下げました。当時は「あらたな政権への期待感」があったうえ、前年までのリーマン・ショックによる世界経済危機からの反動が続く時期でもありましたが、けっきょく10-11月には相場は低迷します。
第46回総選挙:株価上げ
2012年の総選挙では、安倍自民が政権を奪還しました。一方の民主党は歴史的大敗を喫します。この期の相場は、「アベノミクスラリー」で文字通りの大躍進を果たします。
第47回総選挙:(乱高下のち)株価上げ
前回となる2014年の総選挙では、アベノミクス支持は固く自民が圧勝しました。とはいえ、有権者には気概と諦めの入り混じった雰囲気のなか、けっきょく極めて低い投票率となりました。こののち数カ月は、国際情勢の混乱を反映し、株価は乱高下しましたが、半年を待たず株価は上げています。
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まとめ:「解散/総選挙は買い」アノマリー、勝率は66%
ここまで、2000年以降に行われた6つの解散・総選挙について、その後の株価の推移を見てみました。これをまとめたのが、次の表です。
選挙回 | その後の株価 |
---|---|
第42回総選挙 | 下げ |
第43回総選挙 | 上げ |
第44回総選挙 | 上げ |
第45回総選挙 | 下げ |
第46回総選挙 | 上げ |
第47回総選挙 | (乱高下も)上げ |
こうして並べてみると、6回の解散・総選挙のうち、上げたのは4回となります。つまり、「解散は買い」「選挙は買い」アノマリーの勝率は、4/6で66%と言えます。
株価の値幅を取る期間をどう設定するかにもよるため、いちがいにこの結果だけで決めつけることはできませんが、少なくともこの結果では、まあまあ信頼に足るアノマリー、と言えそうです。
(ただ、大まかには、政策が結果を出した場合、もしくは多勢に支持された場合、解散・総選挙が株高を呼ぶ、というのは言えそうです。)
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2017年に総選挙が行われたら、上げる?下げる?
さて、2017年に開催されるであろう解散・総選挙について言うならば、株価は果たして上げるのでしょうか?
とりあえず、選挙前である現在のところ見られた大幅な株価上げは、「解散は買い」「選挙は買い」アノマリーへの期待感も含みつつ、政権支持率が底を打ったところでの政権長期化への期待感が産んだものと言えそうです。
事実、いっとき下げ続けていた安倍内閣の支持率は底を打ち、日経はじめ数紙の調査では、50%近い支持率が見られています。
また、野党の勢力もきわめて弱まっていると言わざるを得ません。かつて競った民進党はスキャンダルやら相次ぐ離党者やらとまとまりにかけ、台頭の予感があった日本ファーストの会もいまのところはっきりした方向感は見えていません。あくまで相対的にではありますが、総選挙に望み自民の地盤は整っていると言えなくもないでしょう。
このように政権維持を材料とした株高のベクトルがあるのは事実ですが、自民勝利にせよ他党勝利にせよ、今解散総選挙が行われたその目先には、おそらく依然として北朝鮮による地政学リスクが横たわっている可能性が強いでしょう。新政権への期待感のみで株高が続くとは少々考えにくいかもしれません。