米株式の代表的指数がNYダウです。正式名称である「ダウ工業株30種平均」にあるとおり、米経済を代表する30種類の銘柄が、この指数の算出に用いられています。
それらNYダウ採用銘柄は、キャピタルゲイン(差益)、インカムゲイン(配当)ともきわめて優れたパフォーマンスを発揮すると一般に考えられていますが、では、ダウ銘柄の入れ替えには、何か基準があるのでしょうか?どんな銘柄がNYダウ採用銘柄となるのでしょうか?
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NYダウの銘柄入れ替えで何が行われるか
2017年に入っても最高値を更新し続けるNYダウ。その採用銘柄入れ替えが行われ、採用銘柄なるだけで、その銘柄には、きわめて大きな「ブランド力」がつく、と多くの人が考えています。
たとえば、投資家がポートフォリオを組む際、NYダウ採用銘柄だけを対象にして効率よくスクリーニングを行うという、通称「ダウの犬」という投資法も良く知られています。
ダウ銘柄入れ替えで起こること
それだけに、NYダウ採用銘柄が入れ替えられたときは、新たに採用された銘柄、あるいは外された銘柄の株価に、大きな影響が発生することが多々あります。
あるいは、ダウ採用銘柄の入れ替えを観察することで、そのときの米経済の構造を縮図として把握することもできます。
もちろん、銘柄入れ替えによって、NYダウ自体の株価も変動します。
NYダウ採用銘柄になるための条件
NYダウは米経済の縮図といいましたが、もっと言うと、米経済の「最も勢いのある部分」を切り取ったのが、NYダウ株価だとも言えます。
というのも、ダウに組み込まれるには、世界でも指折りの時価総額と、組み込まれるにふさわしい勢いを備えていなければならないからです。しかも、NYダウ株価算出には、わずか30銘柄しか採用されません。
同じく米国株の主要指数であるS&P500が500銘柄、あるいは日本株の指数である日経平均株価が225銘柄からなることをふまえると、NYダウの30銘柄というのは、相当厳選されふるいにかけられたものであることがわかります。
NYダウは「単純平均型」の株価指数である
NYダウの銘柄入れ替えを考える際に注目したいのが、ダウが「単純平均型」と呼ばれる方式で算出される株価指数である、という点です。
単純平均型とは、ダウ採用株30銘柄の株価を、おおむね「ただ平均して」出したような株価、という意味合いです。本当は、さらにダウ独自の係数が乗算されていますが、その係数がダウ株価におよぼす調整の度合いは、比較的少ないと言ってよいでしょう。
単純平均型の特徴は、採用銘柄のなかでも、とくに単価の高い「値がさ株」のほうが、NYダウ平均株価の値動きにおよぼす影響が大きい、という点です。たとえば200ドルの銘柄が1%上げたとき(+2ドル)のほうが、20ドルの銘柄が1%上げたとき(+0.2ドル)よりも、NYダウの騰落により大きく影響するのです。
ダウ採用銘柄になるには「儲かっているだけではダメ」
NYダウが、こうした特徴を持つ単純平均型の株価指数であるからには、たとえある米国企業がいくら儲かっていても、その銘柄の単価が高すぎて400ドルも500ドルもしたら、その銘柄を採用することはできないのです。
なぜなら、その銘柄がちょっと動いただけで、それに引っ張られたNYダウ株価が大きな値動きを示してしまうからです。それでは、相場の平均値を示すべく作られた株価指数としての役割を果たせなくなってしまいます。
つまり、ダウ採用銘柄になるには、ただ儲かっているだけではダメなのです。すでに採用されている他の(29種の)銘柄の「和を乱さない」程度の範囲に、株価が収まっている必要があるのです。株価が高すぎても安すぎてもダメなのです。
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なぜアップル株は「ダウになれなかった」のか
さて、米国株、あるいは世界中の銘柄の中でも、時価総額が最大の銘柄はどこかご存知でしょうか?答えはアップル(APPL、NASDAQ)です。その時価総額は2017年10月現在で8000億ドル(約90兆円)と、まさに天文学的数字に達しています。
アップルをこれほど巨大な企業に仕立て上げた製品として、多くの人の脳裏に浮かぶのは、iPhoneでしょう。比較的上の世代なら、パーソナルコンピュータのMacintoshを挙げる人も多いかもしれません。もちろん、いずれもアップルの成長に多大に寄与してきました。
このうち比較的新しい製品であるiPhoneでも、発売は今から10年前にあたる2007年と、すでに歴史のある製品と言えます。なのに、アップルが晴れて大採用銘柄になったのは、なんと2015年、iPhone登場から8年も経っています。
高すぎたアップル株
生き馬の目を抜くICT企業にとって、8年という時間は、数々の大波を乗り越えた長い長い8年間であったに違いありません。なのに、その間ダウが手をこまねいてきたのはなぜなのでしょうか?
その間、NYダウを算出する大元締めであるS&P・ダウ・ジョーンズ・インダイシーズ社は何をしていたのでしょうか?アップルの大躍進に気づいていなかったかというと、当然そんなわけはありません。
S&Pには、アップルの時価総額がいくら膨らんでも、ダウに採用できない理由がありました。それが、高すぎたアップルの株価です。アップル株は、他のダウ採用銘柄に比べて、単価が高すぎたのです。
525ドルが75ドルに – 株式分割で狙ったダウ採用
NYダウ銘柄採用の前年となる2014年の4月23日、アップルは、7:1の株式分割(一株を七株に分割する)を決算発表で公にしました。
決算発表前のアップル株価は535ドルほど、一方のダウ採用済み銘柄は、高い方でも190ドル(IBM)、安い方だと23ドル(シスコ)ほどです。ここに525ドルのアップル株(分割前)が混ざってしまった場合、ダウ株価に及ぼすインパクトはあまりに大きくなってしまいます。
そのため、アップル株は長らく、実力がありながらも株価が高すぎるためにダウに組み入れられない異色の銘柄と認識されてきました。そこでアップルが行ったのが、7:1の株式分割です。これにより、525ドルだった株価は、1/7で75ドルを狙ったことになります。これなら、ダウ採用銘柄の「和を乱す」ことはなくなります。
つまり、アップルは、ダウ採用銘柄の入れ替えを見越して、株式分割によって株価調整を行い、ダウ採用を狙ったのです。事実、それは奏功し、翌2015年のダウ採用につながっていきます。
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ダウ銘柄入れ替えと採用銘柄投資の関係
ダウ銘柄入れ替えに選ばれるには、まず世界経済を牽引する超トップクラス時価総額となる必要があります。しかしそれだけではダウ銘柄にはなれません。
ダウ採用銘柄というブランド力は大きく、それだけで株価揚げの恩恵があるとも言われます。投資家たちは「ダウの犬」投資法よろしく、ダウ採用銘柄というだけでポジションの選択肢に挙げるようになります。
アップルは、2015年にいたってようやくダウ採用にいたり、これによって2%ほどの株価上げ効果がありました。また、アップルがダウ採用に向けて動いたことにより、NYダウもより現代的な株価指数となり、信頼性が上がったと考えられています。
ダウ採用は銘柄の将来保証ではない
といっても、ダウ採用がアップル株価の今後の上昇トレンドを保証しているかというと、そんなことはありません。例えばインテルは、1999年に採用銘柄の仲間入りを果たしながら、その後の株価は低迷しています。
NYダウは、まぎれもなく、米国株価指数としての信頼性を保ったものです。しかし、ダウ組入銘柄それぞれは、きわめて厳格なルールで採用されており、ひょんなことから銘柄入れ替えの際にあっさりと外されてしまいます。つまり、ダウ採用銘柄だからといってその後の繁栄が保証されているわけではないのです。
ダウ銘柄入れ替えが起きたからと言って、ニュースの見出しだけでポートフォリオを組み直すのは早計かもしれません。銘柄入れ替えの際の厳格なルールはダウ株価維持向上のためのものであり、あくまで構成個別銘柄の株価上げのためにあるわけではないからです。
投資の世界では「相場は相場に聞け」という言い回しがありますが、実にその通りと言えるでしょう。ある銘柄の相場がどうなるかは、その銘柄をとりまく相場から読み取った方が、よほど身のためと言えるでしょう。