一番やさしい!「米利上げ/ドル安」と「低長期金利」、なんでこうなるの?

米では短期金利の利上げが発表されています。短期金利が上がると通貨価値も上がる、つまり、米利上げ→ドル高、と一般的には説明されますが、このところは米利上げもドル下落と報じられています。これは、どうしてなのでしょうか。

また、この利上げドル安とからんで説明されるのが、頭打ちで上昇できない米国の長期金利です。

この「利上げ/ドル安」そして「低長期金利」の三つは、どのような関係にあるか、理解できている人は意外に多くありません。この記事では、誰にでもわかるようなやさしい説明で、いま米国に何が起きているかを説明します。

スポンサードリンク

概要:「利上げ、なのにドル安?」の理由

まず、米が「利上げ」しているはずなのに、ドル高に振れず「ドル安円高」と報じられているのは、なぜなのでしょうか?
まずは、大まかな流れを説明します。

前提:このところの米は(統計上は)景気が良い

アメリカはいま、統計上は「景気がいい」と考えられます。

例えば5月に発表された米雇用統計によれば、就業者数は21万人増えたといいます。
つまり、多くの人が仕事についていて、ちゃんと収入がある状態だ、ということです。

また、株価も基本的に上昇を続けています。
下記の2017年のNYダウ指数チャートを見ると、昨年末からおおむね上昇を続けていることが見て取れます。
これも、企業の業績に対する高評価を反映したものと言えます。

景気がいいから利上げ・ドル高を目指した米FRB

景気がいいとは、世の中(米経済)にお金(ドル)がたくさん出回っている状態のことです。
しかし、このまま放っておくと、お金が世の中にありあまってきて、ドルの価値が大きく下がる可能性があります。

そのため、米の中央銀行であるFRBの最高責任者であるイエレン議長は、好景気の頃合いを見て、利上げを実施してきました。

利上げとは、銀行や企業、もしくは個人がお金を借りるための利子を高くして、世の中に出回るお金を少し減らし、お金の価値が下がらないようにする(もしくは上げる)ための措置です。

米経済は、統計上は景気がよいはずなので、利上げしても大きな弊害を起こすことなく、ドルの価値を上げる(ドル高)ことができるはずですね。
その結果… たしかに、ドルの価値は上がった「はず」なのです。しかし、今起こっているのは「ドル安」です。これはなぜなのでしょうか?

ドルは上がった…のに、結局「ドル安円高」はなぜ!?

利上げでドルが出回る量を減らしたから、皆が「ドルが足りないよ!ドルがほしいよ!」と考え、結果ドル高となったはず、なのに、今は「ドル安」と毎日のように報じられています。なんだかおかしなことのように思えますね。

しかし、「ドル安」だけなく「円高」のほうにも注目すると、その謎が見えてきます。

つまり利上げで、ドルの価値は上がったが、それ以上に円の価値が上がっているのです。だから、相対的にドル安円高になるのです。

言い換えれば「ドルは微上げ、円は超上げ」という感じでしょうか。
だから、ドル円は結局、相対的には「円のほうがドルより高くなった」ので、「ドル安円高」になったのです。

ここまでが、「利上げしたのにドル安」という状況の、おおまかな説明です。

じゃあ「ドル微上げ」で「円もっと上げ」は、なんで?

では、そもそも、「ドルが少ししか上がらず(=ドル安)」、「円の方がもっと上がっている(=円高)」のは、なぜなのでしょうか?

それは、先程から「(統計上は)」とカッコつきで説明してきた、米国の「好景気」の中身に、秘密があるのです。

米の景気が良く見えるのは、実は「一部」が良いだけ

米雇用統計、あるいは株価指数など、「全体的なデータ」だけを見ると、米経済は景気が良くなっています。

しかし、もうちょっと細かく見てみると、景気が良くなっているのはあくまで「一部」でしかないのです。

「統計的な」好景気の中身は・・・

例えば、雇用統計を見ても分かる通り、仕事についている人の割合は、以前より多くなりました。
とはいえ、いまの米国では、「お金を持っている人」と「お金があまりない人」の差が極めて大きいのです。この状態は、よく「超格差社会」などと表現されます。

だから、全国民のデータをまとめた統計だと「景気上昇」なのですが、実は、それを実感している人は、一部のお金持ちだけなのです。
そして、その他の大多数の国民は、とくにお金持ちになったわけでもなく、好景気を実感できる状況にはないと考えられます。

つまり、今の米国は、「統計上は景気がいい」けど、実は、景気がいい人は一握りで、他の「多くの人は景気がよくない」という、見かけと内実の異なった状況におちいっているのです。

景気が良くない人は、安定資産を欲しがる

一部の景気のいい人を除くと、他のほとんどの景気の良くない人は、自分の持っているお金を、より損する確率が少なそうな「安定した資産」に替えようと考えます。

いまでいう安定した資産とはすなわち、「円」そして「米長期国債」です。

円:最も安定した通貨の一つ

世界でも政情が安定し相場が動きにくい通貨、それが「円」です。

クーデターやテロが起きにくく、また経済的に体力のある日本の通貨「円」は、価値がかんたんに上がったり下がったりする株式や他国通貨と比べて、きわめて安全な資産と考えられています。

景気が悪くお金を使うのに慎重になっている多くの人が、より「損をしなそうな資産運用」をしようと考えた結果、投資先として選んでいるのが円なのです。
こうなると、みんなが「ほしい!」と考えているわけだから、円は価値が上がり、円高に進みますね。

米長期国債:安心なのに利率も高い

円と並んで「安全」と受け取られるもう一つの資産が、米の「長期国債」です。

国債というのは、満期になればかならず元本が戻ってきます。
長期国債とは、満期が~30年という国債です。

もちろん、その国債を発行している国じたいが破綻してしまえば、満期に元本が戻る補償はありませんが、少なくとも米国のような超経済大国であれば、一朝一夕で財政破綻(デフォルト)が起きることはまず考えられません。したがって、30年後になってもアメリカは破綻していないだろう、元本が戻り利息ももらえるだろう、と考える人がほとんどです。つまり、安全資産だと考えられているのです。

しかも、現在(2017年8月18日)時点では、米30年国債の金利は2.78%と、他の国の国債とくらべて、高い水準にあります。
これだけ大きな国で、かつこれだけの高金利を保っている長期国債は、米長期国債しかありません。

というわけで、いま、景気が悪くてお金の運用先に慎重になっている人たちは、「安全」かつ「利益が比較的大きい」米長期国債を投資先に選んでいるのです。

みんなが投資先に国債を選ぶと、そのぶんドルへの投資額は減りますね。
すると、これまた、ドル安への圧力が増すことになるのです。

ほとんどの「景気の良くない人」がドル安圧力を作る

と、ここまでが、「利上げしたのにドル安」となった理由の、少し詳しい説明です。

まとめると、実は米のおおかたの人の景気は良くなく、安全資産として「円」と「米長期国債」を欲しがる人が増え、これによって、

  • 円は買われ、円高になる
  • ドルは買われず、ドル高圧力が低下する

という状況になり、その結果、いま

  • 円高ドル安

が起きている、ということなのです。

スポンサーリンク

長期金利(長期国債の金利)が低い、ってどういうこと?

ところで、冒頭で「利上げ/ドル安」と、もう一つニュースに頻出する単語、「低長期金利」について説明すると言いました。

米が「利上げ」したのに「ドル安」になった、というカラクリは説明しましたが、もう一つの「低長期金利」は、どう関係しているのでしょうか?

長期金利は、長期国債の「人気」で決まる

ここでいう長期金利というのは、先ほど説明した「米長期国債」の金利のことです。

よく「利上げ」「利下げ」と説明される短期金利が中央銀行(FRB/イエレン議長)によって決められるのに対し、長期金利の方は、国債を買う人がどれだけ多いかによって決まります。

国債の利息額は一定である

国債には、国が発行したときの元値があり、それに対する利子の額は、変わりません。

たとえば元値10,000円で、もとは利息2%の長期国債があったら、その利子は、200円ですね。

しかし、国債の値段の方は、国が発行した後で市場に出ることで、価格が変わります。
みんなが「国債がほしい!」と思ったら、国債の値段は上がります。たとえば、もともと10,000円の国債なのに、みんなが欲しがるから10,100円になるかもしれません。

しかし、それでも、もらえる利子額は200円と、変わらないのです。

国債の市場価格が上がると、利率は低下する

さいしょに国が発行したときの価格の10,000円で長期国債を買って、利息が200円ついたら、利率2%ですね。

でも、みんなが国債を欲しがって、値段が10,100円に上がった時に買った人にしてみれば、利子200円つくとすると、利率1.98%と言えます。

つまり、「みんなが国債を欲しがると、国債の利率は低くなる」のです。

長期金利低下=市場心理としては「景気がよくない」ということ

このように、最近ニュースで「米の長期金利が上がらない」と言っているのは、要するに、みんなが米国債を欲しがっているからなのです。

つまり、みんながお金を出し渋っているから、安全な資産(米長期国債)ばかり買われているよ、だから金利が低くなっちゃってるよ、ということです。

景気がいいなら、ほんとうは、もっとリスクの大きい株式などに投資していてもいいはずです。しかし、長期金利を見るとそうなっていないから、なんとかしてもっと景気を上げないとね、というのが、「長期金利低下」が報道される前提となっているのです。

さて、ここまで、「利上げ/ドル安」および「長期金利低下」について説明してきました。まとめるならば、

「統計を見ると景気がよさそうだから、バランスをとるため利上げしよう。」

「でも、みんなそこまで好景気を感じていないな。円が買われてドル安になっちゃってるな。」

「また、長期国債が買われて、なおドル安になってる。長期金利が低下しているのでわかるよ。」

「なんとかしなければ!」

といった流れで、連日の経済ニュースが報道されている、といった感じでしょうか。

リスク材料多く、情報を活用した資産運用を

しかも現在は、トランプ大統領にまつわる米政情不安、あるいは北朝鮮との緊張の高まり、さらには上昇が続く米株価に対する暴落への警戒心など、さらなる景気上昇に対しては、阻害要因が他にもいくつか横たわっています。

それらはますます、安全資産である円や米長期国債の買いを生むことになるかもしれません。

ひるがえって、現在は日本の株式市場に対する海外投資家の影響力は極めて大きくなっており、また国際経済の相関関係もきわめて濃くなっています。つまり、アメリカの景気動向に、日本の景気動向も大きく影響される、ということです。

日経平均株価の日次、あるいは週次や月次といったAI予想をチェックしておくことで、今後の経済ニュースをもとに、根拠を持って投資判断を行うことができるようになるでしょう。

トルコリラ大上昇!を予想する2つの理由/利率17.75%の高スワップ通貨運用法

2018.06.21

2018年南アフリカランド予想/スワップ年利16%も狙える!資源国通貨でのFXのポイント

2018.06.26

 

おすすめ記事

米国10年国債利回り・ドル円相関チャート

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください