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「ファンダメンタル価値」理論と「砂上の楼閣」理論/「ウォール街のランダム・ウォーカー」入門(第一章後半)

本記事では、株価予測、つまり、ある株の値段が「上がりそうか、下がりそうか」を考えるための、最も基本的な二つの方法を説明します。すなわち、個人投資の名著「ウォール街のランダム・ウォーカー」第一章後半で紹介される「ファンダメンタル価値」理論、そして「砂上の楼閣」理論です。

これらについて、誰にでもわかるよう、できるだけかんたんに、本記事で解説しようと思います。

前回の記事はこちら(「ランダム・ウォーカー」第一章前半、「ゆっくり確実にお金持ちになる方法」としての個人投資の、やさしい説明と理解)

株価の値上がり・値下がりを知る方法はある?

あなたは今、ある株銘柄への投資を考えているとします。
その株が、これから値上がりするか、あるいは値下がりするか、どうやったら知ることができるのでしょうか?

実は、それを確実に知る方法はありません。

私たちのような個人投資家でも、プロや機関投資家(銀行、証券会社など)でも、株価の未来を完璧に当てることができる人は、どこにもいません。
なぜなら、株価は必ず「ランダムに動くもの(=ランダム・ウォーカー)」だからです。

しかし(というか、だからこそ)、全ての投資家は、その株価が「上がりそうか、下がりそうか」を、何らかの方法で「予測する」必要があるのです。

「ファンダメンタル価値」理論と「砂上の楼閣」理論

その予測方法として、歴史的に使われてきた代表的な二つの考え方が、「ファンダメンタル価値」理論、そして「砂上の楼閣」理論です。

といっても、どちらも聞き慣れないうえ、なんだか難しそうですね。
そこで本記事では、たとえ話を使ったり、不要な部分は省略したりして、これらの理論を誰にでもわかるように説明してみようと思います。

株の「本来の価値」を考える/「ファンダメンタル価値」理論

まず一つ目に「ファンダメンタル価値」理論という考え方を説明します。

「ファンダメンタル」とは、日本語にすると「本来の」といった意味です。ゆえに「ファンダメンタル価値」とは「(株の)本来の価値」と言い換えることができます。

・・・と言われても、まだよくわかりませんね。
この「ファンダメンタル(=本来の)」という言葉について、たとえ話を使って説明してみようと思います。

たとえ話:「ボールは大きくなる?小さくなる?」

ちいさな子供が、ボールを隠し持っています。
そして、あなたにこんなクイズを出しました。

このボールは、これから大きくなるでしょうか?小さくなるでしょうか?

あなたなら、どうやって答えを出すでしょうか?
まずボールを見せてもらおう、と思う人は多いでしょう。

見せてもらったボールが、ぎゅっと握ってつぶされていたら、手を離したとたんボールは元の大きさに戻るはずですね。つまり、今より「大きく」なるでしょう。

あるいは、ボールに土の塊などがくっついて、大きさをかさ増ししているかもしれません。この場合は、土を落とせば元の大きさに戻り、今よりも「小さく」なりますね。

・・・と、ここまで読んだあなたの頭の中には、潰されてもいない、かさ増しもされていない、「本来の(=ファンダメンタルな)」大きさのボールのイメージが、思い浮かんでいるのではないでしょうか?

株式の現在価格と「本来の価値(価格)」とを比べる

さて、株の話に戻ります。
こちらでも、似たようなクイズを出しましょう。

ここに、現在価格10,000円の株銘柄があります。
この株価は今後、上がるでしょうか?下がるでしょうか?

それを予測するために、まず株の将来配当額や企業の財務情報、新事業の展望などを調べ、その株の「本来ならこれくらいでしかるべきだろう、という価格」(=ファンダメンタル価値)をはじき出す、という方法があります。

こうして計算した結果、「きっと、本来あるべき株価は11,000円だ」となれば、今後は、現在の10,000円からさらに値上がりしそうです。買い時と言ってもよいでしょう。

あるいは「きっと、本来は9,000円ぶんの価値しかない」と考えるかもしれません。となると、現在価格の10,000円から、今後は下落しそうです。今は売り時かもしれません。

・・・と、これが「ファンダメンタル価値」理論での株価予測方法です。

「株価は常に、あるべき本来の価格に戻ろうとする」

「ファンダメンタル価値」理論では、それぞれの株銘柄には本来の価値(価格)があり、値動きはランダムとはいえ、常に本来の価格に近づこうとする傾向がある、というのです。

とすれば、株価が外的要因に握りつぶされ小さくなっても、いずれ本来の株価に戻ります。
あるいは、余計なものがくっついて大きくなっていても、それがはがれたら、やはり本来の価格に戻ります。

このように、本来の価値がわかれば、今の価格が割高か割安か、今後価格が上がるか下がるか、わかるはずです。
これが「ファンダメンタル価値」理論の考え方です。

広く支持される「予測」方法

「ファンダメンタル価値」理論は、投資家にも、経済学者にも、広く支持されています。たとえば、とても有名なアメリカの投資家であるウォーレン・バフェット氏も、この理論を忠実に実践していると言われています。

ただ、忘れてはならないのは、この理論も結局は予測でしかないということです。

プロの証券アナリストは、この理論にもとづく複雑な数式で、もっともらしい株価予測を出します。しかし、それが必ず正しいわけではありません。理論さえ使えば成果が出る、ということはないのです。

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少しでも早く他人を出し抜こう!/「砂上の楼閣」理論

もう一つ、本書で紹介される基本的なな株価予測理論が「砂上の楼閣」理論です。

砂上の楼閣とは「見上げるほど大きく立派でも、土台が弱く崩れやすいもの」のたとえです。「砂上の楼閣」理論の論者は、高値の株価もそのようなものだ、というのです。

高値株=「群集心理が作り上げた砂上の楼閣」

20世紀、「砂上の楼閣」理論で成果を残した投資家が、イギリスのケインズです。

彼によれば、ファンダメンタル価値理論は「面倒なわりに効果が怪しい」手法です。
そんなことよりも、自分以外の他の投資家たちがどう出るか、群集心理を読むことのほうが、株式で利益を出すには重要だ、というのです。

たとえ話:「(みんなが)美人(だと思う顔)コンテスト」

この考え方を説明するものとして「美人コンテスト」のたとえが有名です。

新聞に、100人の美女の顔写真を載せます。
そして、多数の読者に、自分が美人だと思う顔写真を六枚ずつ選ばせます。
この結果を集計し、「みんなが美人だと思う顔ランキング」を作ります。

その「みんなが美人だと思う顔ランキング」結果を当てた人に、多額の賞金を出す、というコンテストを、ある大衆雑誌が行ったのです。

ここで賞金を取りたいなら、自分の好みではなく「みんなが選びそうな顔」に投票する必要があります。
つまり、顔が(自分にとって)美人かどうかよりも、みんなの考えを読むことのほうが、賞金を得るには重要だ、ということです。

みんなの動きを予想できた人が勝ち

さて、株式投資の話に戻りましょう。

「砂上の楼閣」理論では、これから値上がりする株を見つけたいなら、「みんなが買いそうな銘柄」を探すことに終始します。

今後みんなが買いそうな銘柄を見つけ、値段が安いうちに買っておきます。
みんなが買い出せば値上がりが始まり、人気に勢いが付くと高騰するでしょう。
それが頂点に達し暴落する前に、またみんなの先を読み、売りぬくのです。

ここで、ファンダメンタル価値理論派が「今の価格は本来の価格の10倍に達している。早晩値下がりするから気を付けろ!」と言っても、砂上の楼閣理論派は、いっこうに気にしません。

「砂上の楼閣」理論では、たとえ今が本来価値の10倍でも、明日さらに人気がヒートアップして群集心理が燃え上がり、本来価値の20倍になるなら、その銘柄は「買い」なのです。

もう一つの代表的な株価予測法

このように、「砂上の楼閣」理論では、(銘柄そのものよりも)投資家たちの群集心理にフォーカスが集まります。

銘柄自体の配当や企業情報に基づいて判断する「ファンダメンタル価値」理論に比べると、こちらはいささかヤマっ気が強く見えるでしょうか?
しかし、「砂上の楼閣」理論のほうも、学者や投資家にたくさんの支持者がいます。

むしろ、1990年代に起きたインターネット/ハイテク株のバブルなどは、群集心理を抜きにして説明することはできない、とも言われます。
また、「砂上の楼閣」理論からは、群集心理と経済のかかわりをより重視した「行動経済学」なども生まれ、欧米の株式先進国でも、さかんに研究されています。

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どちらがいい、とは限らない

と、ここまで、基本的な株価予測理論、つまり「上がりそうか、下がりそうか」を予測するための考え方を、二つ説明してきました。

どちらかの理論が、もともと自分で考えていたおぼろげな「株価予測法」と似ている!と感じた人も、中にはいらっしゃるかもしれませんね。

これらは、どちらが正しいとか間違っているとかいうことではありません。
むしろ、文中で紹介したウォーレン・バフェットやケインズのように、それぞれの手法で成功を収めた投資家が、たくさんいます。

株式の歴史に深くかかわってきた、二つの理論

「ランダム・ウォーカー」の冒頭でこれらが説明されているのは、単に「どちらか気に入ったほうを使えばいいよ」というだけではありません。

むしろ、これほど多くに支持され実績を上げた株式理論が、いかに簡単に「外れる」ものでもあるのか、続く章で説明し、過度な幻想を捨てさせるため、とも考えられます。

本書の第二章以降では、人類が歴史上経験してきた様々な「バブル」が紹介され、これらの二大理論がどのように関係してきたかが説明されます。

次回記事では、そうした歴史的なバブルについて、わかりやすく説明しようと思います。

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