米国で警戒感が高まってきた「第二のサブプライムローン」について、今何が起きているかを、誰にでもわかるように解説します。
このサブプライムとはもちろん、2008年の世界金融危機、通称リーマン・ショックの引き金となった「サブプライム・ローン」と同じ意味合いです。
このページの目次
何が起こっている?「第二のサブプライム」問題とは
まずは、今米国で何が起こっているか、概要を説明します。
今米国では、自動車購入ローンを組む人の借金が、非常に大きくなっています。
なぜなのでしょうか?
それは、本来ならローンを組めないような信用の低い層が、より甘い審査でローンを組み、自動車を購入しているからです。
この「信用の低い」人たちのことを、「サブプライム」層と呼びます。
サブプライム層に対して提供されるローンだから、これを「サブプライムローン」と呼びます。
「高利・長期返済」があたりまえ
サブプライム・ローンの特徴は、二つあります。
まず、審査が甘く、信用が低い人(サブプライム層)でもローンが組めること。
そして、そのかわりに、高利率で返済期間が長いことです。
本来なら、返済能力が低くて融資を受けられないようなサブプライム層が、ローンで新車を買い、高利率で長い間借金を払い続けるわけです。
なお、2016年秋の米TV番組報道によれば、サブプライム自動車ローンの年利率は、大部分が19%、多い人だと29%にもなる、といいます。
(このTV番組では、3,000ドルの車を購入した人が、ローン支払い総額でなんと30,000ドル、つまり10倍のお金を支払うことになった、との例も紹介されていました)
リスクを逃れようとする金融機関(ローンの証券化)
こうなると当然、支払いが滞る人が出てきます。
そうした人たちは、せっかくローンで買った車を差し押さえられ、それでもまだ残るローンの支払のため毎月の給与も差し押さえられます。
このような状態が続くと、全財産を費やしても借金が払えない人、つまり債務不履行のケースも出てきます。
これは、お金を貸した金融機関側にしてみれば、貸したお金が戻ってこないわけで、高いリスクになります。
そのため、金融機関は、貸したお金と利息を取り立てる権利を、投資家や企業に売りつけます。
実際に売買されるのは、ローン契約書などではありません。ローンの「証券」です。
(これを証券化といいます)
こうすることで金融機関は、返ってくるかわからないローン返済金を、すぐさま現金化できるのです。
一方、その証券を保有した投資家は、高い利子のついたローン返済金を、満期まで受け取ることができることになっています。
といっても本当は、債務不履行で大損するリスクも高いのです。
こうしてリスクを押し付け合うサブプライム・ローンの仕組みが、問題の本質です。
リーマン・ショック(第一次サブプライム危機)と瓜二つ
ここまでの説明をまとめると、サブプライム・ローンのプロセスは次のようなものです。
1. 低信用(サブプライム)層へのローン融資
2. 支払われるはずの借金を証券化
3. 投資家が買う
4. 焦げ付き(債務不履行)リスクはそのまま
このプロセスはまさに、2008年の「第一次サブプライム」、つまりリーマン・ショック金融危機と全く同じです。
リーマン・ショックと「第二のサブプライム」との比較
この「第二のサブプライム」も、リーマン・ショックのような世界的金融危機を引き起こすことになるのでしょうか?
ローンの総額ははるかに小規模(「心配無用」説)
ただ、今のところは、前回のような世界的金融危機につながる可能性は低いのではないか、という意見があります。
というのも、第二のサブプライムと第一次サブプライムとでは、ローン総額の規模が決定的に違うからです。
リーマン・ショック時に問題となったのは、自動車ではなく住宅を抵当にしたローンでした。
住宅ローンの規模は、自動車のそれとは比較にならないほど大きく、市場全体から見ると、住宅ローンの68%に対し、自動車ローンは9%、しかもその中でサブプライム向けは、たったの3.8%です。
※参考:New York Fed Consumer Credit Panel/Equifax 2017年1Q統計、”MARKETPLACE” 記事
つまり、リーマン・ショックのときよりも、今回のサブプライム・ローンはずっと影響規模が小さいのです。
ゆえに、例えば米メディアの“MARKETPLACE” 6月21日付記事では、JPモルガンCEO(ジェイミー・ダイモン氏)の「サブプライムに問題があるのは確かだが、全体から見ると、ボリュームがあまりに小さく、それほど影響はないはずだ」との発言を取り上げ、楽観視しています。
消費に大きな影響の可能性も(「第二のサブプライム危機」説)
しかし、MARKETPLACE記事の翌日に出された日本経済新聞の6月22日付記事では、また別の視点で、高い警戒感が必要との見方が示されました。
どちらの記事も、今回のサブプライム向け自動車ローンが、住宅ローンに比べると小規模であるという点では一致しています。
しかし日経では、自動車ローンそれ自体ではなく、それによって消費が大きく低下する可能性についての懸念が語られています。
新車市場が大打撃を受ける?
その最も影響が大きいのは、自動車の新車市場だといいます。
アメリカでは(日本と同じように)、新車を買うために、今乗っている車を売りに出したり、下取りに出したりするのが一般的です。
しかし、無理なローンで車を買ったサブプライム層が、支払いを苦にその車を手放し始めると、市中に(もとは新車だった)中古車が溢れかえり、中古車の相場が大幅に下がる、といいます。しかも、レンタカー上がりの車両も「津波のように」押し寄せて、さらに中古車が増える可能性もあります。
そうなると、中古車の価格はさらに下がります。
中古車を売るサブプライム層は、もう新車を買う余裕はありません。
その流れにより、2019年には「米新車販売台数が1700万台から1500万台に落ちる」との見通しもあるといいます。
米国依存の日本車メーカー、株価に伸び悩み
ここで、現在の東京市場を見てみると、自動車株のうち、低迷する銘柄が見られます。
「米国への依存度の高いメーカー」の銘柄です。
つまり、「第二のサブプライム」問題への危機感から、米国での販売台数減少を警戒し、米への依存度の高いトヨタ、日産などで(米国依存度の低いスズキなどと比べ)株価に大きな格差が出た可能性があるのです。
銘柄 | 2015/12/28終値 | 201/6/22終値 |
---|---|---|
スズキ | 3,703 | 5,311 (+43%) |
トヨタ自動車 | 7,488 | 5,877 (-12%) |
日産自動車 | 1,279.5 | 1,070 (-17%) |
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世界的な株高状況、次の経済イベントは何なのか
「第二のサブプライム」危機が現実となると、米国中古車価格が暴落し、新車が販売不振となり、日本企業を含む自動車メーカーの工場は生産が落ち込み、消費は抑制、関連企業へ打撃…と、影響が連鎖していき、さらに不況が不況を呼ぶ負のスパイラルが生じる可能性も、否定できません。
他方、振り返れば、6月14日、米は追加利上げに踏み切りましたが、今のところ金利の上昇はゆるやかで、今後の見通しは確かではない状況です。
世界的な株高にあるなか、この状況がいつまで続くのか、なんらかの経済イベントで暴落が近いとの見方もあり、警戒が必要なところです。
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