9月13日(木)、トルコの政策金利が、前回17.75%から実績24.00%(+6.25%)へと、大幅に引き上げられました。
市場の事前予想はおおむね21~22%(+3~4%)ほどで、またエルドアン大統領からの利下げ圧力もあったなか、市場予想を上回った今回の結果は、ひとまず市場に歓迎されているもようです。
しかし、この大幅利上げをしても、トルコリラ円レートは上値が限られ伸び悩んでいる状況です。トルコリラ円伸び悩みの3つの理由をまとめつつ、トルコ政策金利と通貨の今後の見通しを解説します。
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金利大幅引き上げ、予想超えの24%へ
利上げ前日の12日(水)には高値17.5円周辺のレンジで小動きに推移していたトルコリラ円は、13日20時半に政策金利が発表されると同時に急上昇、18円を上抜け、14日は18.3円周辺で伸び悩んだ格好となっています。
この結果を受け、市場ではリスクオフ的な動きが後退、ドル円レートはリスクオフ資産とされる円の売りが優勢となり一時112円を超えたほか、リスクオン資産とされる南アランドなど新興国通貨も、トルコリラとほぼ同期して買われています。
・トルコリラ円(ローソク)、ドル円(青線)、南アランド円(橙線)
金利は上昇、しかしトルコリラは・・・
ただ、現在の高値18円台は、8月後半以来で約3週間ぶりとはいえ、もうすこし長いスパンで見てみると、トルコリラ円はまだ、史上安値圏の中でわずかに戻しただけにすぎません。
2018年だけで見てみても、ほんの少し前の7月頃には20円台、さらに2018年初頭には30円台をつけていました。1年ほどのチャートで見てみると、このところのトルコリラがどれだけ強い勢いで下落してきたかがうかがい知れます。
金利上げでもリラ高にならない3つの理由
市場予想をさらに上回り、24.00%という高水準な政策金利引き上げを行ったにもかかわらず、トルコリラの上昇幅が比較的狭いレンジにとどまったのは、なぜなのでしょうか?
理由1:トルコ国内の巨大なリラ売りドル買い実需
まず第一の理由として、トルコリラが思ったほど上昇しなかった原因は、市場がトルコリラ買いに動いた一方で、トルコ国内の企業や個人が大量のトルコリラ売り・外貨買いに動いたからだ、との報道が出ています。
トルコの国内企業や個人は、様々な資産をドルなど外貨建てで仕入れていますが、このところのリラ急落で、外貨調達コストが極めて高くなっていました。そんななか、今回のリラ上昇・外貨安が、トルコ国民にとって、外貨を割安で調達する絶好の機会となった、というのです。
つまり、投資・投機ではなく、実需からのリラ売り・ドル買い(外貨買い)が出た、ということです。
報道によれば、政策金利引き上げ発表のあとに発生したトルコ国内からのリラ売り・外貨買いは、換算20億ドル(2200億円)にも及ぶ、とされており、この巨額の売りがトルコリラの上昇幅を大きく狭める結果となったのではないか、といいます。
理由2:利上げが遅すぎた
もう一つの理由としては、利上げのタイミングが遅すぎたことがあります。
トルコは長く高インフレに苦しんでおり、通念上のインフレ対応策として、市場からは政策金利の引き上げが望まれている状況にありました。
しかしエルドアン大統領は、支持率維持を狙い大衆におもねる目的で、トルコ中銀に対し利下げ(金融緩和)を行うよう圧力をかけ続けており、トルコ中銀の独立性が危ぶまれている状況でした。
当のトルコ中銀は、2018年5月に、前回値8%から+8.5%で16.5%へ、二倍以上となる政策金利引き上げを行っており、その際には市場からの評価を得ました。
しかし、翌6月に+1.25%で17.75%とした以降、利上げペースは鈍り、同年7月には、市場からさらなる利上げが望まれていたにもかかわらず、政策金利は据え置きで17.75%のままとし、「もはやトルコ中銀の独立性は損なわれた」との声も出るなど、市場の失望を買っていました。
こうした経緯から、今回2018年9月に大幅な利上げを行ったものの、時すでに遅しといったムードが市場に漂っているのも事実です。今回の利上げを評価する声の影で、「もはや、さらなる利上げがなければ状況改善には至らないのでは」という意見も出ています。
「24%への利上げを7月時点で行っていれば、もっと評価された(=トルコリラ相場が持ち直した)ものを」と、中銀の決断がここまで遅れたことを悔やむエコノミストの声もあります。
理由3:エルドアン政権の失政
高水準利上げでもトルコリラがさして上昇しなかった理由の三つ目は、トルコ政権の政策のまずさが考えられます。
このところのトルコリラ安(トルコリラショック)に対し、エルドアン大統領は「外貨(ドルやユーロ)を売ってリラを保持し、レートを支えよう」と声明を発していますが、焼け石に水ともいえるこの対策はかえって市場の不安をよび、トルコリラ安に拍車がかかる、という悪循環となっていました。
そこで起きた今回の政策金利引き上げをうけ、エルドアン大統領はさらに「今後、不動産購入や賃貸に使うお金は、トルコリラを使うこと」との政令を発しました。金利発表と同じ13日のことです。
トルコの企業や国民にとっては、不動産購入や賃貸に外貨、とくにドルを用いることは、ごく一般的でした。しかし、その際には、リラ売り・ドル買いの需要が発生し、リラを下押すことになります。
そこでエルドアン大統領は、ドルを使えなくしてリラ売り抑制することで、リラの下押し圧力を和らげようとしたのです。
しかし、こちらのリラ安対策も、「あまりに表層的だ」としてかえって市場の不安感を高めることとなり、政策金利引き上げによるリラ上昇の上値を抑える結果となってしまったといいます。
このような、トルコ政権による通貨安への一連の対応策のまずさが、かえってリラレートの重荷になる、という、皮肉な状況が発生しています。
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今後のトルコ政策金利と市場見通し
高水準な政策金利引き上げが実施された現在、市場では「ようやく…」という安堵の声と、「いまさら…」というあきれ声の、両方が聞こえています。
この高金利に至ってもなお、トルコリラが下値トレンドから脱したという兆候は見られず、市場からはさらなる利上げと、そのほか対米関係など対外諸問題の進展が強く望まれている状況と言えます。
今後のエルドアンの動きを含め、トルコ情勢についてはまだまだ予断を許さない状況が続くでしょう。
次回のトルコ中銀の金融政策決定会合は2018年10月25日に予定されています。