今後米国がインフレ加速とともに金利上昇に向かい、結果ドル高・円安が進む、との見立ては、このところ大勢となってきています。
しかし、それを鵜呑みにできるほど、現在の状況はまだ整っていません。FRB議長選任や米税制改革、あるいは地政学リスクといった材料にそって、今後のドル円相場のコンセンサスを精査し、どのような展開が考えられるのかを説明します
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「米インフレ」コンセンサスにイエレン発言が影を差した
米経済はインフレに向かっている、との印象がグローバル投資家のなかに広がっているのは疑いようがありません。
そして、インフレなら金利上昇、金利上昇で円安、というコンセンサス(=市場が共通して持っている見解、予想の「落とし所」)があります。
インフレ減速なら利上げは困難、円高へ?
しかし先日、FRB(米連邦準備制度理事会)のイエレン議長が、当局の見通しが2%のインフレ目標達成を疑わしいとしている可能性をにおわせている、と報じられました。
インフレ期待が下振れすると、消費者は物価上昇に抵抗を感じ、企業は賃上げに慎重になります。つまり、インフレ加速に対して実際に阻害要因を発生させてしまうということです。
インフレ減速となると、景気を冷ます方に誘導する金利上げを実施するのは難しくなるでしょう。すると米低金利はつづき、ドル需要は低下、日米の金利差が離れずドル安・円高の圧力を継続してしまう、という見通しがあります。
つまり、インフレ継続で円安へ、というコンセンサスが、イエレン議長のこの発言で、少々危うくなったわけです。
円安シナリオをコンセンサスごとに検証する
また、市場コンセンサスに基づけば、インフレ減速などで金利低下が続けばドル円は下げで円高ドル安、金利上昇すればドル高円安、となるはずです。
しかし、これは確かなことなのでしょうか?
たとえ金利が上昇となっても円高になる可能性があること、つまりコンセンサスを覆すシナリオについて解説します。
FRB議長、テイラーならタカ派だから円安?
まず、イエレン議長の後任がタカ派のテイラー氏になったとすれば、来年2月以降の米利上げペースは加速され、当初ドル需要を喚起しドル高円安を招く、という市場コンセンサスもあります。
しかし、実際に利上げが実現すれば、現在の米国株高トレンドに冷や水を浴びせる結果となり、結果リスクオフから安全資産の円買いへと投資家心理を誘導する可能性もあります。
つまり、利上げで株安が起きうるためにドルがリスク視されドル売り、結果ドル安・円高となり、「利上げでドル高・円安」という市場コンセンサスが崩れる可能性はあるのです。
米税制改革実現の不透明さ
また、現在期待を集めているトランプ政権による米税制改革(減税)ですが、こちらが実施されると、インフレ過熱を警戒するFRBが利上げペースを加速させる可能性があり、ドル高で円安となると見られています。
しかし、そもそも税制改革実現のためには、トランプ政権が保守勢力と妥協するする必要があり、スムーズにそうなる可能性は、高いとは言えません。「税制改革実現で円安」のシナリオは盤石ではないということです。
リパトリ減税をとりまく円安説
また、米企業の海外留保利益への課税を減らす政策(リパトリ減税)の、2005年の同様の事例から大幅なドル高・円安を招く、というコンセンサスとなっています。
しかしこちらも、2005年の世界的ドル安相場と現在の状況を比較すると、同様の未来予想は立たないという見立てもあります。
当時安かったドルに買いが走った一方で、現在のドルはそこまで安値と言えず、買いに勢いがつくか疑問であり、円安実現も不透明、というわけです。
「北リスクが円安を招く」?
このところ続いている朝鮮半島有事リスクも、かつては地理的な条件から円に不安が出て売りの円安を招く、との見立てもあったものの、実際は北挑戦有事に対して相場はすでに耐性を示しており、リスクが高まると安全資産である円買いにグローバル投資家が走っているのは見ての通りです。
奇妙というか、「日本が巻き込まれうる有事」であっても、買われる安全資産は日本通貨である円なのです。
もはや、地理的な状況にかかわらず円は安全資産として買われリスク上昇時に円高に振れる、という認識はグローバルに共通しています。
「日米金利差が円安を招く」?
あるいは、日米の金利格差、つまり日本より米国のほうが長期金利が高ければ、ドル需要を招き、ひいてはがドル高円安へつながる、というコンセンサスもありますが、こちらも、逆のシナリオを描くことは難しくありません。
これについては、FRBが初めて利上げに踏み切った2015年12月のドル円相場と、現在のドル円を比較してみると、このコンセンサスが必ずしも信用のおけるものではない、とわかります。
2015年12月のドル円は122円付近でした。
その後利上げを三度経た現在、ドル円は114円周辺です。
こうして比較すると、今は2015年よりさらに「ドル安」「円高」に進んでいます。
つまり、利上げをしたら円安、というシナリオとは逆です。利上げをしたのに、むしろ円高になっているのです。
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円安の条件が「整った」と見るのは早計
このように、円安への様々なコンセンサスが存在する一方で、それらを覆すシナリオを構築するのは、難しいことではないのです。
しかも、冒頭に述べたとおり、米国のインフレ伸び率は見通しが不透明になってきており、もしインフレ減速となったら、金利も上げられず低金利のまま、日米金利差が広がらずに安全資産としての円に買いが入る目も見えてきます。
115円あたりが壁?今後の進展に注意
円安への誘導圧力が高まっており、その材料となるコンセンサスにも事欠かない、と思われる現状ですが、よくよく考えてみれば、実は円安に進むための条件は盤石とは言えません。
いま月末で円売りドル買い需要が発生し114円をつけたものの、すでにドル円は反落し113円に向かっています。今後年末までに115円あたりが壁となって、その後の進展によっては、ドル安円高が強まる可能性があります。
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