FX取引において、米ドルと同じ値動きを示しつつ、しかもより安全な取引ができる通貨セットとして人気があるのが、香港ドルです。
香港ドルとは、中国国内のいち地域でありながら、中国本土の通貨(人民元)とは異なる独自の通貨を持つ、香港の通貨です。
この記事では、香港ドルの取引に向いている投資家はどんな人か、香港ドルが不得意なFX取引とはどんなものか、また香港ドル取引のコツについて、やさしく解説します。
このページの目次
香港という国の概要と経済
香港は、中国の南東部に位置する特別行政区です。
面積は1,104平方kmと、東京都23区の二倍ほどにあたり、そこに様々な国からの移民を含む700万人超の人口が密集して暮らしています。
香港は、中国の伝統文化と1世紀半におよぶイギリス統治下で育った西洋文化が混ざり合う、きわめてユニークな地域です。
特別行政区:世界的に重要な貿易都市
香港の正しい名称は「中華人民共和国香港特別行政区」となります。
この特別行政区とは、「中国にありながら、中国本国とは異なる独自の行政機関や法律をもっている地域」のことです。中国では「特区」と呼ばれることもあります。
香港は特別行政区であるために、自由貿易、低税率、そして経済に対する中国政府からの介入が少ない、という貿易上の特長を持ちます。
これらの特長が、巨大市場である中国のど真ん中、かつアジア諸国の中央に位置する、もともとにおいて恵まれた貿易上の特質を備えた香港を、さらに世界経済における重要都市という地位まで押し上げています。
対中依存度の高いサービス経済
香港の主要産業はサービスです。最大の取引相手は、香港にとって自国でありながら他国とも言える国、すなわち中国です。対中貿易によって香港の経済は成り立っていると言えます。
なお、中国にとっての貿易相手でいうと、香港は第三位に位置します。
世界都市・香港
対中貿易のみならず、香港は、ニューヨーク、ロンドン、シンガポール、東京と並ぶ国際金融センターと位置づけられる、世界都市として知られています。経済的競争力はきわめて高く、国民の一人あたり所得も世界有数です。
なお香港は、1200億ドルほどにも至る外貨準備金を保有しており、世界有数の米ドル保有地域でもあります。
と、こうしたことを知るだけでも、香港という(中国本土から見れば)小さな地域が、世界経済においてどれほど重要な位置を占めているかがわかります。
香港ドルとは
この、面積的には小さいながらも強大な影響力を有する「特区」香港で流通する通貨が、香港ドル(HKD)です。
低税率と自由貿易をもって語られる香港の通貨・香港ドルは、世界8位という実に大きな取引高を有しています。
ドルペッグ制=米ドルとほぼ同期する
香港ドルの最も大きな特徴は、米ドル固定レートの相場制、つまり「ドルペッグ制」を採用している点です。
ペッグ制とは、特定の通貨と自分の国の通貨の為替レートが同じ割合で変動するように保つ制度のことです。香港ドルの場合で言えば、米ドルの動きと同じように香港ドルも動く決まりになっている、ということです。
この米ドルペッグ制を採用していることから、米ドルが1%上がれば香港ドルも1%上がります。米ドルが下がれば香港ドルも下がります。
なお、香港ドルがこのようなドルペッグ制をしいている理由は、より安定性の高い大国・アメリカの通貨と連動させることで、自国の通貨レートを安定させ、他国との貿易や投資を行いやすくさせる、という狙いがあります。
スポンサーリンク
FXにおける香港ドルの特長
FXにおいて香港ドルが注目される場合、その理由はたいていが「ドルペッグ制であること」、そして「比較的安全な通貨であること」の2点となります。
1USD=7.8HKD、少額資金で取引可能
香港ドルは、おおむね1米ドル=7.8香港ドルでペッグ(固定)されています。ひっくり返せば、1香港ドルの価値は米ドルの八分の一程度ということになります。
このことから、FXで香港ドルを取引する場合は、基軸通貨である米ドルと同じ安定性をもった値動きの通貨を、より少ない資金で取引することが可能となっています。これが、香港ドルが比較的安全に取引できる通貨である、ということにつながります。
最初資金がかなり少額で済む
FX会社の設定する取引単位が1万通貨とすると、米ドルを取引する場合は1万米ドル(約113万円)が最小単位になります。これに対しレバレッジ25倍で保証金が4%とすると、最初資金としては4万5千円ほどが必要になります。
一方、同じ計算でいうと、香港ドルの取引単位は1万香港ドル(約15万円)、レバレッジが同じく25倍・保証金が4%なら、最初資金は6,000円前後で済みます。
※取引単位・レバレッジ・保証金の設定はFX会社によって異なります。
値動きも小さく収まる
米ドルに比べ、取引単位あたりの資金が少なくて済むということは、取引単位あたりの値動きリスクも、米ドルより小さいということになります。
米ドルの場合、米ドル円のレートが1円動いたとすると、1取引単位あたり1万円が動くことになります。一方、香港ドルの場合なら、1円動いても1,500円ほどしか動かないことになります。
こうした点から、香港ドルは、比較的安全に取引できる通貨と言えます。
スワップ狙いには適さない
ただ、香港ドルはスワップ狙いの取引には向かない通貨と言えます。というのも、スワップ狙いでの長期投資を考えるには、スワップ金利があまりに低いためです。
例えば、YJFXで取引した場合の香港ドル円の買いスワップは、6円となっています。1万通貨あたりの金額なので、15万円で1万香港ドルを買い、1日に6円(0.004%)もらえる計算です。
一方、米ドルなら113万円で71円(0.006%)、高金利と言われる南アフリカランド円なら8万1000円で10円(0.012%)のスワップ金利が手に入ります。つまり、米ドルなら利回りが香港ドルの1.5倍、南アランドなら3倍ということになります。
こうした点から、スワップ狙いの長期投資を行いたい場合、香港ドルは選択肢にのぼらず、他の通貨の方が向いていると考えることができます。
スポンサーリンク
香港ドル取引が向いているのはこんな人
米ドルと値動きが同じでありつつ、より少額で取引できることから、米ドル円と同程度の(というか、同じ)ボラティリティの通貨セットを、より安全に取引したい方には、香港ドル円のFXが向いていると言えます。
取引のコツ:米ドルの情報を活かすこと
FXで通貨の値動きを読む際には、その通貨の発行国の経済指標や金融政策について知るのが定石ですが、香港ドルの場合、取引する人が知っておくべき情報は、香港のものではなく、米国のものとなります。
それは、香港ドルが米ドルペッグ制をしいているためです。
米ドルと同じレートの動きを維持するために、香港は、米国の金融政策を追従する必要がありますが、とはいえ香港と米国では経済的な諸条件に違いがあります。それでも、香港の情報を調べなくて済むのは、香港ドルが米ドルと基本的に同じ動きをするように「ペッグ(固定)されている」からです。
したがって、米の雇用統計や住宅着工件数といっった経済指標が好調なら米ドルも香港ドルも上がり、世界がリスクオフに傾くと円が買われて米ドルも香港ドルも下がります。
FX通貨の中でも、米ドルの流通量はNo.1であり、情報量もほかの通貨とは桁違いの豊富さとなります。この情報量を活かしてトレードできることから、香港ドルのトレードはより読みやすくわかりやすいものであると言えます。
スポンサーリンク
香港ドルのFX取引の注意点
比較的安全なFX通貨という側面のある香港ドルですが、注意すべき点に触れるとすれば、香港の金融政策の転換が起こる可能性でしょうか。
この可能性はまだ高いわけではないものの、将来起こりえることとして、頭の隅に入れておく必要はあるでしょう。
起こりうる金融政策転換とは?
香港ドルが取引しやすい通貨であるのは、なによりもまず、米ドルペッグ制をしいていることが理由となっています。
しかし将来、香港の金融政策が変更され、ドルペッグ制から(他の通貨と同じ)変動相場制に移行した場合、レートにはそれまでには予期しなかったような変動が起きると考えられます。
過去の事例:スイスフランショック(2015年)
FX市場の歴史では、過去にも似たようなことが起こっています。たとえば2015年のいわゆる「スイスフランショック」がそれにあたるでしょう。
かつてスイス中銀は、スイス通貨であるフランの、対ユーロ(ユーロ・スイスフラン)レートが1.2000を割り込まないよう市場に介入する(中銀がスイスフラン売・ユーロ買を行いスイスフラン安に誘導する)と宣言していましたが、2015年1月15日にこの市場介入を突然停止し、結果、急激なスイスフラン高が起きました。
FXでは、FX業者が損失を最小限に食い止めるための「強制ロスカット」が行われますが、このスイスフランショックの際は、レート変動があまりに急激であったことから、通常では考えられないような大きな損失が出た投資家が多く出たとされます。
現次点で差し迫ったリスクは少ない
繰り返しますが、「スイスフランショック」と同じ通貨危機が、将来の香港ドルにも必ず起こる、というわけではありません。
しかも現在のところ香港では大きな金融リスクは指摘されておらず、数年前に懸念を呼んでいた中国からの市場介入・金融政策介入についても、2018年現在はとりあえずさして注目を集める問題とはなっていません。
スポンサーリンク
おすすめの香港ドル投資法 まとめ
香港ドルでFX取引を行う場合は、やはり、比較的安全な取引ができる通貨である点を活かし、少額からの短期~中期投資を行うのがよいでしょう。
ドルペッグ制だから情報入手が容易
値動きを読むための情報としては、米国の金融政策や経済統計などをチェックしておけばよく、米国に関する経済ニュースは世界で最も多いことから、初心者でも比較的容易に情報を集めることができるはずです。
もちろん、すべての通貨に当てはまることですが、なんらかの要因による急激なレート変動の可能性はあり、また上述の「スイスフランショック」のような極端な金融政策変更による変動も起こりえます。
スワップポイントの低水準さもあいまって、香港ドルをなんの考えもなく長期保有するのは、さしたるメリットがないと言えます。むしろ、長期保有するにしたがって高まる市場急変リスクに対して無防備な状態が続くといえ、むしろデメリットが多いとすら言えるでしょう。
短~中期取引がおすすめ
このような点を踏まえ、少額で短期~中期の取引を行いたい場合、または、FX初心者がマーケット情報を参考にした取引を習得したい場合など、香港ドルの取引が向いていると言えるでしょう。
香港ドル円のレートにつき、日次のレンジ予想(高値・安値予想)をこちらで公開しています。取引の際は、マーケット情報にこちらも合わせて参考にするとよいでしょう。
スポンサーリンク
2018年~2019年の見通し
米ドルペッグ制が来年までも継続した場合、香港ドル円の動きは米ドル円の動きとほぼ完全に同期することになります。
そのため、2018年から2019年にかけてのレート予想も、米ドル円の予想材料を根拠として、米ドル円と同じレンジ幅で計算できることになります。
米ドル長期予想から出す香港ドル予想
米ドル円の方の予想はというと、こちらのページで長期予想が示されており、2018年のレンジは安値98.72円から高値115.98円、2019年は安値92.25円から高値108.76円となっています。
これを、米ドル円(USDJPY)現在値に対する安値率・高値率に直したのが、次の画像です。
さらに、この安値率・高値率を、香港ドル円(HKDJPY)の現在値にかけてみたのが、こちらの画像になります。
2018~19年は下落(円高)基調か
これによれば、今年2018年につき、現在は高値(14.84)の手前にあると考えられます。
また来年の高値は13.92と現在値よりも低いレンジとなっており、これから2019年に向けての香港ドル円レートは下落傾向(円高方向)にあると考えられます。
レンジ予想にそって投資をすることの価値
FXレンジ予想は、予想を立てる人によって大きく異なってくることがあり、また外れることも少なくないことから、あまり意味がない、と考える人が、とくに初心者には多いものです。
しかし、自分なりに経済のストーリーを立て、それにそってレンジ予想を行い、あたった場合だけでなく、ハズレた場合でも、どこが変動要因となったのかを反省し予想に修正を加えていくことで、投資家として大きく成長する基盤を作っていくことができます。
今回の年間レンジ予想を参考に、自分のFXレンジ予想をたててみて、それに沿って投資を行っていくと、大きな経験と自身が身につくでしょう。