対米関係改善や市場心理改善とともに、トルコリラ円レートが急伸しています。きのう17日には節目の20円をついに戻し、現在も安定した推移が続いています。
米国人牧師釈放やサウジ記者行方不明事件など、重要な最新キーワードをまとめて俯瞰することで、トルコリラ円の2018年の見通しを予想します。
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20円超え、週足ゴールデンクロス間近!
急上昇中のトルコリラ円レートが、節目とされる上値レジスタンス20円を上抜けました。
週足チャートでは20週移動平均線(週足20MA)にきわめて近づいています。
この週足20MAを上抜けるとゴールデンクロスが完成し、極めて長い下落トレンドにあったトルコリラ円が、ようやくトレンド反転する公算が高まることになります。
トルコリラ円「20円」をめぐる攻防 まとめ
長らく下落し続けてきたトルコリラですが、トルコは今後、人口ボーナス(労働人口増による国の経済成長)の到来が予想されている国であり、それとともにトルコリラも「いつか反発しトレンド転換したら、あとは経済成長にしたがってレートも上昇し続ける」との期待を受けてきた通貨でもあります。
そうした観測のうえで、今年中盤までの底値めやすとされていたのが、20円という下値ラインでした。
米の経済制裁で急落、20円下抜け
下げ続けていたトルコリラ円は、今年の2018年7月に安値22円をつけており、当時は「もうすぐ底打ちでは」との見方も市場に出始めていました。
しかし、その翌月の2018年8月、トルコは米国から関税の大幅引き上げというかたち経済制裁を受けます。その原因は、トルコが拘束していた米国人牧師ブランソン氏の解放を訴えるトランプ政権に対し、トルコが要求をはねつけたことでした。
米関税引き上げによって、トルコ経済の先行き見通しはさらに大きく悪化し、市場ではトルコリラ売りが急増、対円・対米ドルともトルコリラレートは急落しました。(トルコリラショック)
8月9日から10日にかけて起きたこの急落で、トルコリラ円レートは、底値めやすとされていた20円を一気に下抜け、安値15円台まで下落しました。
なぜこんなに急落?「トルコリラショック」おさらい
ここで、米国人牧師ブランソン氏をめぐる対立が、このような事態に発展したいきさつを、おさらいしてみましょう。
今年、米トランプ大統領は、間近に迫る米中間選挙へ向けた成果獲得のため、また大きな票田となる米キリスト教福音派に対する点数稼ぎのために、クーデター容疑でトルコ政府が勾留していた、福音派の牧師であるブランソン氏を釈放させようとしていました。
しかし一方で、「強いトルコ」を国民に対して示したい意向のトルコ・エルドアン政権は、かんたんに米の要求をのむわけにはいきません。
そこで米トランプ政権は、報復措置としてトルコからの輸入品に高関税をかける決定を下します。
すでに高水準なインフレに苦しんでおり、外貨獲得が生命線とも言えるトルコ経済にとって、これは大きな痛手となります。これによりトルコ経済の見通しが悪化、ひいてはトルコリラ見通し悪化でリスクオフが急激に進み、トルコリラが急落する事態となりました。
さらに、このリスクオフの動きは世界的に波及し、ほかの新興国通貨も大きく売られる展開となりました。これがトルコリラショックです。
ブランソン氏釈放、ついに20円台回復
しかしその後、「米国がトルコと秘密裏に交渉を続けている」との報道が出始め、さらに「トルコがブランソン氏解放に向けて動いている」との報が続いたことで、トルコリラ円はじりじりと戻していきます。
そして10月12日、ついにブランソン氏が解放されました。
すると、これと同時にトルコリラ円レートは急上昇し、きのう17日には、ついに節目の20円台を回復しました。
20円回復は、今年8月9日以来、実に2ヶ月ぶりとなります。
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今日のトルコリラ円 市況
今日18日のトルコリラ円は、ひとまず20円を上抜けた20.100円周辺での横ばい推移となっています。
なお、きょう18日の日本時間未明には、トルコが6ヶ月ぶりにドル建てのトルコ国債を発行し、60億ドル(約6720億円)の需要を集めた、とも報じられています。こちらもトルコリラの買いを支える材料となった模様です。
そして、欧および米の取引時間終了とともに、トルコリラ円の取引は細り、きょうの日中は狭いレンジで小動きの推移となっています。
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トルコリラ円 2018年見通し
さて、残すところあと2ヶ月強となった2018年、トルコリラ円レートはどのような推移となるでしょうか。重要視すべき材料に沿って見通しをつけてみます。
対米関係は改善へ向かっている
トルコリラショックの引き金を引いたのが米・トルコ間の関係悪化でしたが、そこから戻したきっかけも対米関係の改善でした。そしてさらに、今後トルコと米国の関係は改善に向かっていくと予想されます。
これに関する新しい話題としては、サウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏が在トルコのサウジ領事館で行方不明となった事件につき、すでに米国務長官のポンペオ氏がトルコを訪問して会談を設けています。
さらに、現在も継続中の米による経済制裁が、一部解除される見込みとの報道も出てきています。
このまま両国が接近すれば、大きな見通し改善となり、トルコリラはさらに上昇する可能性があります。
市場がトルコ中銀へ求める政策金利引き上げ
そして、次の大きなイベントとして、10月25日(木)に予定されているトルコ中銀の政策会合があります。この際に、追加利上げが行われる可能性も否定できません。
いずれにせよ、すさまじい勢いのインフレを抑制できているとはいえないトルコにとって、政策金利のさらなる引き上げは避けて通ることができないと考えられます。
トルコ・エルドアン大統領は国内の景気高揚・支持基盤安定を狙い、トルコ中銀に対して利下げ圧力を欠け続けているとされますが、それに屈せず中銀が(あるいは独裁体制をしくエルドアン大統領自身が)利上げへ向かうことができれば、トルコリラ円レートは大きく上昇するでしょう。
米の経済制裁解除で23円突破か
ただ、年内に大きな利上げが行われる可能性は大きくはないと言えます。
目下の最重要ポイントはやはり、対米関係の改善でしょう。
少なくとも、大きく改善した米国との関係がこのまま維持され、他にサプライズがなければ、2018年内のトルコリラ円レートは底堅く推移するでしょう。
また、もし経済制裁の解除にいたることがあれば、トルコリラ円レートにとって大きなインパクトとなります。その際は、今年5月~7月の下値ラインである23円を目指す展開も考えられるでしょう。