「リスクオンの円安」
「リスクオフ(リスク回避)の円高」
といった表現を、為替ニュースで目にすることが、よくあります。
おそらく、「リスクオン→円安」、「リスクオフ→円高」というのが、多くの方の認識ではないかと思います。
しかしこのところは、
「リスクオンで円高」
「リスクオフで円安」
といった、これまでの認識とは逆のパターンが出てきて戸惑うことがあります。これはいったい、何が起きているのでしょうか?
リスクオン・オフとドル円レートの関係、とくに、コロナ問題を通過した2020年以降の展開について解説します。
通貨ごとの特性
リスクオン・リスクオフの動きについて考える前に、まずは、ドルや円といった通貨が、それぞれどんな性質を持っているか、確認してみましょう。
ドル – 世界の基軸通貨
世界最大の経済規模を持つ国アメリカの通貨であるドル(米ドル)は、「世界の基軸通貨」と呼ばれます。
基軸通貨とは、世界中のほぼすべての国が使用する通貨、という意味です。ほとんどの国にとってアメリカは大きな貿易相手国(商売相手)であり、アメリカとの貿易にドルは欠かせないものとなっています。
このため、ドルが上下すると、世界中の国や企業が大きな影響を受けます。このように、ドルは世界経済の基軸となっていることから、「基軸通貨」と呼ばれるのです。
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円 – 世界の安全通貨
一方の日本は、「世界最大の対外債権国」であり、世界一多く外貨建て資産を保有、かつ外国へ借金を返す必要がない「健全経営国家」であることから、日本の通貨である円は暴落リスクの少ない「安全通貨」と呼ばれています。
財政赤字でもつぶれない国、日本
よく「日本は財政赤字大国だから、近い将来破産するリスクがある」、との論調も見かけます。しかし、これも実際にはあたりません。
日本の国債のほとんどは自国内の投資家に買われているものであるため、償還は自国内通貨の発行でまかなうことができます。
外国への償還が巨額となれば、外国通貨購入のため巨額円売り→円暴落とのシナリオも考えられますが、そもそも対外借金はほぼゼロであるために、このシナリオもあたりません。
日本の財政破綻リスクは極めて小さい
なお、万一のケースで円が暴落したとしても、日本は巨額のドル資産を保有しているために、それを使って暴落した発行済み国債を買い戻せば、日本の借金のほとんどを返済することができる、と言われています。
どういったシナリオであっても、世界最大の対外債権国であり、世界一の外貨保有、かつ対外債務ほぼゼロである限り、日本の財政が破綻するリスクは小さいとされ、この意味で円は「世界の安全通貨」と言われることが多くなっています。
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円と並ぶ「安全通貨」スイスフラン
なお、日本円と同じく「安全通貨」とされるものに、スイスフランがあります。
スイスでは、政府及び国民の金保有量が多いことから、この金保有量に裏付けられたスイスフランの貨幣価値が認められています。
加えて、永世中立国であることから、スイス国家の安定性は金融市場で高く評価されています。
こうした面から、スイスフランは円と同様の「安全通貨」として位置付けられています。
その他 – 資源国通貨、投機的通貨、新興国通貨など
豪ドルやカナダドルなど、資源輸出の多い国の通貨は「資源億通貨」と呼ばれます。
オーストラリアは石炭や石油、天然ガスといった資源に大変恵まれており、これらの対外輸出が財政の大部分を担っています。カナダも同様に、石油や天然ガスを豊富に産出しています。
このため、これらの国の通貨は、石炭や石油といった資源の価格につれて騰落することがあり、このため「資源国通貨」と呼ばれます。
また英ポンドなどは、先進国通貨でありながらEU離脱問題などとからんで騰落が激しいことから、「投機的通貨」と呼ばれることもあります。
このほか、トルコリラや南アフリカランドは「新興国通貨」と呼ばれます。これらは激しい値動きや高金利などを特長とし、こうした面でFXの対象となることがあります。
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リスクオフの円高、リスクオフの円安
さて、リスクオン・リスクオフといった動きと通貨のかかわりを考えてみましょう。
リスクオフの円高、リスクオンの円安
ドル円という通貨セットで考えた場合、通常は、リスクオフ時(投資家が、将来の不確定性を回避したい状況)には、安全通貨である円が買われる傾向にあります。これが「リスクオフの円高」です。
逆に、世界経済の見通しが堅調である場合など、リスクオン時(投資家が、将来の不確定性を許容できる状況)では、安全通貨である円は売られ、代わりに、より価格上昇や高金利が見込める通貨(ドルほか)が買われます。これが「リスクオンの円安」です。
有事に見られる「リスクオフの円安」
しかし、戦争などの地政学的リスクや、その他の大きな問題が発生した際は、安全通貨の円が買われる一方で、基軸通貨としてのドルを保有しておこうという動きが強まることもあります。
この際に、円買いよりもドル買いの方が勝った場合、「リスクオフの円安(ドル高)」の状況となります。この状況は「有事のドル買い」といった言い回しでも表現されます。
とくに2020年は、新型コロナ感染拡大に伴う世界景気後退懸念で、リスクオフの流れの際にドル円が上昇する「有事のドル買い」のケースが頻繁に見られるようになっています。
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2020年のコロナショックをドル円の値動きで振り返る
ではここで、2020年のコロナショック時、市場のリスクオン・リスクオフとともにドル円がどのような動きを示したのか、具体的に振り返ってみましょう。
初動は「リスクオフの円高」
コロナショックの初動としては、リスクオフの動きにより、安全資産の円やスイスフランが買われ、ドルが売られました。その結果、ドル円は一時101円台まで円高が進みました。
・ドル円の日足チャート(画像はTrading View、以下同様)
事態悪化とともに強まった「有事のドル買い」
しかしその後、101円まで円高が進んだタイミングを境に、この水準を底としてドルに買い戻しが入りました。この背景としては、円高一巡の一方で、「有事のドル買い」が進んだことがあったと考えられます。
当初は楽観論もあった新型コロナウイルス問題ですが、世界各地で被害が広がるにつれ、市場では有事を迎えているとの意識が徐々に高まってきました。
これにより投資家らのあいだでは、リーマンショック以来となる金融危機への備えとして、基軸通貨ドル資金の確保の動きが生まれ、ドル円に関しても円買いよりドル買いの方が優越、急速なドル高が進む事態となりました。これが「有事のドル買い」です。
ドルインデックスで見るドル急騰の激しさ
各通貨に対するドルの相対的な強さを表す指数「ドルインデックス」チャートを見ると、コロナショック初動の下落の後、ドルには急速な買い戻しが入っていることが見て取れます。
この際、ドルインデックスは、またたくまに2019年及び2020年の高値を更新、さらに2016年末から2017年初の高値近くまで急騰していることがわかります。
このドルインデックスの急騰を見ると、コロナショック時のドル買いの激しさは一目瞭然と言えます。
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今後について
では、今後のリスクオン・リスクオンの動きとドル円の関係はどのようになるのでしょうか?いくつかのシナリオを想定して考えてみます。
ドルインデックス現状からは「売られすぎ」
上に挙げたドルインデックスチャートの右の方を見ると、コロナショックの一段落とともにドルインデックスも反落し、現在はコロナショック発生直後の安値を大きく下回った水準まで下げていることがわかります。
このチャートの状況を素直に見ると、ドルインデックスは売られ過ぎのようにも見受けられます。
コロナ禍は継続しているとはいえ、今後はワクチンや新薬の開発・配備とともに米及び世界経済が回復フェーズに入ることが考えられ、ドルインデックスにも相応の上値余地ができていると考えられます。
このため、米低金利政策の長期化は確実視されているものの、今後の米景気指標改善など、なんらかの報道とともにドル買いに勢いがつく可能性も考えられます。
米株大幅調整なら「有事のドル買い」再燃も
一方、9月頭に米国株は大きな調整局面を迎えており、米ダウ指数はほんの2営業日で約1000ドルもの下落となり、その翌週も500ドル以上という大幅な下げとなりました。こちらも、今後のリスク許容度と円高・ドル高に影響を及ぼす可能性があります。
米国株は、歴史的急落を示したコロナショック以降、反発トレンドが続き急速に立ち直ってきました。しかし今回の株価調整が長期化・大規模化すれば、市場では再び、コロナ禍から続く「有事」が意識され、有事のドル買いが発生する可能性があります。
米株調整限定的なら「リスクオフ円高」回帰か
とはいえ、現在の米国株調整がさして大きな下落幅とならずに一巡となれば、今後は、株安局面における「通常のリスクオフ」の動きが優勢となり、安全通貨の円が買われる展開となることも予想されます。
ただ、この場合は、ドル買い圧力が解消されることで「リスクオフ円高」の動きが一気に極大化し、コロナショック後底値を意識する展開も考えられるため、いぜん注意は必要です。
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相場の混乱強まれば再度の「有事のドル買い」も
通常のリスクオフであれば安全通貨の円が買われますが、有事gあ強く意識されている状況では、基軸通貨ドルを確保しようとする動き(有事のドル買い)が優勢となることがあります。
2020年のコロナショックは、まさにそうした「有事」となり、リスクオフでのドル買いを引き起こしています。
ひとまず目先では、有事のドル買いの動きは一巡となっていますが、今後、コロナ問題のほか、株式市場の動揺や、コロナ問題に端を発した米中対立のゆくえなどにからみ、再度の有事ドル買いが起きるほどの市場混乱が生じるのかどうか、この点が今後のリスクオフ時の注目ポイントになりそうです。
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